■豊栄で信楽焼!? 和泉春信さん

 4月27日(木)、「小さな信楽展2023」にお邪魔してきました。世羅町にあるせらにしタウンセンターで開催中です。

この展示は、豊栄町 和泉春信さんの個展。それを聞いて最初に頭に浮かんだのは「豊栄で信楽焼!?」でした。それをそのまま和泉さんに伺いまして、「信楽の土で作るのが信楽焼ですよ」とお答えいただきました。そういうことなんですね。

学校の先生だった和泉さんは、教育の中に取り入れたことをきっかけに陶芸に出会いました。ある時、運命的な作品と出会い、こんな作品を作りたいという思いに動かされ、以来20年、作品を作り続けているそうです。その運命的な作品が信楽焼。だから信楽焼なのです。

皆さんは、「信楽焼を作っている」と聞いて、どんな作業をされていると思いますか。信楽の粘土を買ってきて、それを捏ねて作陶し、焼成する。普通、そうですよね。和泉さんの作陶はそんなことではありません。まずは粘土。信楽に行って粘土を掘り、塊をそのまま持って帰ります。それから、粘土に混ざっている長石の量を調節し、イメージする作品に合わせた粘土づくりを行うそうです。粘土を掘らせてもらえるようになるまでのお話にも驚きです。10年以上にわたって、何度も信楽に通い、作り上げてきた信頼関係の中でようやく掘らせてもらえるようになったんだとか。

 焼成も簡単にはいきません。穴窯を使って1250~1300度くらいで行われるそうですが、大変なのは、薪集め。窯に火を入れようと思うと、大量の薪が必要です。日頃から近隣の山を管理する代わりに、薪用の木をいただきながら、こつこつ集める。火入れできる量が集めるまでには2年程度かかるそう。びっくりです。

 和泉さんによると「作陶なんて、すぐできるんですよ。準備の時間がほとんどです」ということです。粘土を探して掘り、山を管理し、薪をつくる。年単位の時間と労力も含めて陶芸なんですね。

 「小さな信楽展2023」の会場に入ると、展示作品の数に圧倒されました。ここは工房なのかと思うほどです。今回は、大量に並べられた同じ形の作品を全部で一つの作品というイメージで展示されているそうです。同じ形とはいえ、本当に同じ粘土を焼いたものなのかと思うほど、色も風合いも形も違います。

釉薬のように見えるのは粘土中の長石が溶け出したもので、粘土中に含まれる長石の量によって変わるそうです。素焼きのように見えるものがあったり、全体に釉薬がかかっているように見えるものもあったり。色も、優しいオレンジ色もあれば、味のあるグリーンもある。形には、生活に根差した焼き物である信楽焼の「用の美」が感じられます。

 大量の作品を一度に見てもらうことで、信楽焼の振れ幅が大きく、多面的な魅力を感じてもらえるのだと感じました。

 また、この大量の作品の中に、ねこちゃん、昔のお墓を参考に作った作品、惚れこんで収集した作品も並べられていたり、和泉さんが作った版画や織物の作品があったり。こっそり遊び心も織り交ぜられている展示でした。

この展示はまもなく終わってしまうので、見に行けない方が多いと思いますが、今年7月12日(水)から24日(月)まで、東広島市芸術文化ホールくららの市民ギャラリーでも展示が予定されています。今回の展示と内容は異なるそうですが、美術展での受賞作品も並ぶそうです。楽しみですね。