「集落を描き、人々の営みを伝える 難波平人」

 広島大学名誉教授であり、二紀会理事でもある難波先生は、長年、東広島で活動していらっしゃいます。その縁もあって、東広島は難波先生の作品を拝見する機会に恵まれた場所です。昨年は東広島市立美術館で特別展が開催されました。そこに住む人々が背負ってきた魂を集落の風景に込めて、大胆な構図と繊細な描写で表現し、一見にして、難波先生の作品だと分かる、独特な世界を築いてこられました。

 先生の作品の原点は出身地である山口県上関町の風景。中でも、戦後復興期にあるといいます。絶望の中を、決して諦めることなく、力強く、歯を食いしばって生きていた人々。その人々を内包する風景を、先生は、緊張感を持ちながら、心を揺さぶられながら、ある意味で、わくわくしながら、長年にわたって記憶に持ち続けていらっしゃいます。

 その時代のふるさとと同じように、ご自身を奮い立たせる景色を求めて、日本の国内各地域をめぐり、世界108カ国を歩き、表現し続けてきました。その意欲は衰えることなく、今月も南アフリカを訪れる予定だといいます。

 このように、精力的に作品制作に取り組む一方、教育者という顔を持つ難波先生。もちろん、長年にわたり広島大学で教鞭をとられ、現在でも広島市内1か所、東広島市内4か所の絵画教室で指導していらっしゃいます。

 今でも教えることを続ける理由の1つは、「絵を描くことの素晴らしさを伝え、描く人を増やしたい」という思い。特に、自らが住む町の魅力に目を向け、表現してもらおうと、毎年、「東広島を楽しくスケッチしよう」という講座を開催されています。「私も一緒に描くのですが、参加者一人ひとりの目で見た地域の魅力が表現され、特に、そこに住む人たちが描く作品からは、新しい発見をさせられます」と難波先生。2024年は5月7日から河内町で行われる予定だそうです。

 集落の美しさは、土地に生きてきた人々の営みによって築かれたものです。先生はその美を表現しながら、また、伝えながら、東広島を見守ってくださっています。